騙されないための宝石知識2 (色の境界)
色によって名前が変わる宝石
鉱物学上は同じものだけれど、宝飾業界では特定の色を持つ石に対して別の呼称が与えられるという事が多々ございます。
サファイアとルビーは鉱物学上は同じ『コランダム』だけれど、宝飾業界では赤色のコランダムだけをルビー、それ以外の色をサファイアと呼ぶといった具合です。
ここから先は基礎知識として『鉱物名』『宝石名』『通称名(別名)』『コマーシャルネーム』等の分類について知っておかれた方が理解が早いかと思いますので、もしよろしければ、その点を解説した別記事を先にご覧ください。
ルビーとサファイアの境界線
色の違いによる呼称の変化で気を付けるべき点は、『ボーダーライン上の色にあたる石をどう扱うべきか』です。
一昔前の資料では『ピンクや紫を含めた赤系のコランダムを全てルビーと呼ぶ』というものもございますが、現在はピンク色のコランダムはピンクサファイアと呼ばれる事が一般的です。
問題はピンクと赤の境目はどこにあるのか。
そして『サファイア』に分類されたときと『ルビー』に分類されたときでは、市場価値に大きな差ができる事です。
率直に申し上げますとルビーの方が値段が高いです。
ボーダーライン上の色にある石は各鑑別機関によって見解が分かれる可能性がございます。
一般社団法人宝石鑑別団体協議会(AGL)様のホームページ内『定義と命名法』によると、『各色』の『天然コランダム』についての宝石名の欄には『ルビー又は□□□サファイア』とあるように、判断は各鑑別機関に委ねられているようです。
ルビーのようにメジャーな『宝石名』であれば、業界内にある程度厳格な暗黙知の基準があると考えられますが、よりマイナーな『通称名(別名)』については更なる注意が必要です。
見かけ上の色で冠される通称名の難しさ
通称名(別名)は正式な名前ではないけれど、一般に広く認知された俗称です。
鑑別書に記載される場合は、備考欄に『別名、○○と呼ばれています』といった風に記載されます。
例えば『パパラチアサファイア』や『インディゴライト』がそれにあたります。
これら通称名の中には微妙な中間色に与えられる名前も多く、明確な色範囲定義がなく曖昧なため、難しいです。
とある鑑別機関のグレーダーさんに伺ったところ、見た目の色で名前が変わる石は難しいとおっしゃっておりました。
各鑑別機関で基準となる石(マスターストーン)と比べることで判断しているようですが、各機関によりクセのようなものが実際あるそうです。
微妙なラインにある色は複数人の目で確認することにより判定しているそうですが、それでもその日のコンディションによって若干のブレが出てしまう可能性は否定できないとの事でした。
ちなみに通称名のなかでもコマーシャルネームに近い名前は鑑別機関によって扱いが異なり、そもそも取り扱わない(判定も記載もしない)場合が多いです。
例えば『サンタマリアアクアマリン』などがそれに該当いたします。
パパラチアサファイアに要注意
価格が安い石であればあまり気にする必要はないのですが、特に『パパラチアサファイア』などの高価な石は、記載の有無で更に大きく価値が異なってきます。
名前の記号性で大きく価値が変わるのは、個人的には常軌を逸しているようにも感じられますが、そこに大きなエクストラコストを支払うのであれば、宝石屋さんの話だけを鵜呑みにするのではなく、必ず信頼できる第三者の鑑別機関が発行した鑑別書内に記載があることを、注意深くご確認ください。
また、名前とは別の問題ではございますが、鑑別書の無いパパラチアサファイアはベリリウム拡散加熱という処理によって、人為的に着色されている可能性もございます。
(業界内でこれはパパラチアサファイアと呼ばない決まりになってます)
見た目プラスアルファで定義される石
見た目だけではなく、含有成分によって定義される石は明確です。
例えば『パライバトルマリン(通称名・別名)』はネオン感のある青~緑の色合いが魅力的ですが、色だけではなく発色起因になっている銅(Cu)の含有を認められるという条件がございます。
これは通常の鑑別書には記載されず、追加検査(そこそこ費用高いです)で発行される蛍光X線分析報告書にパライバトルマリンと記載されます。
言わずと知れた『エメラルド(宝石名)』は緑色のベリルですが、厳密にはクロム(Cr)を発色起因とするものです。
なのでクロムを含まない緑色ベリルは『グリーンベリル』と呼ぶのが正しいかと存じます。
きっと鑑別機関の方々も悩んでます
今回は見た目の色で定義される宝石の名前についてご説明してきました。
宝石はその大半が透明かつ立体的なものなので、それが何色であるか断言することは本当に難しいものです。
もし、宝石をお持ちでしたら試していただきたいのですが…
1.お手持ちの宝石の写真を撮影してください
2.同じ宝石をもう一度、別の場所や日時、又は他のカメラで撮影してください
3.上記の二つの写真を見比べてみてください
いかがでしょうか?びっくりするくらい別の色に見えるかと思います。
環境光、撮影角度、機材による見え方の違いは非常に大きいです。
これと同じ事が人間の目でも起こっていると考えられます。
同じ石でもルース単体とジュエリーに仕立てたものでは色合いが全く変わってきますし、再研磨で形が変わっても色に影響を及ぼします。一体、基準はどこにあるのだろうか…という気分になってしまっても無理もないです。
恐らく、見た目の色のみで定義される宝石の名前については、記載したくないというのが鑑別機関の本音なのではないだろうかと個人的に想像しております。
鑑別機関は第三者機関ではあるものの、公的機関ではなく普通の会社です。
それ故、顧客の需要(通称名も記載してほしいよ!)にある程度応えつつ、信頼を損なうような変な鑑別は出来ないという、ある種の板ばさみ的な状況におかれていることは想像に難くないです。
以上を踏まえた上で、HIKARUISHIのおすすめは…
・宝石の名前に固執するよりも見た目が気に入ったものを手に入れた方が良い。
・パパラチアサファイアなど、定義の曖昧な宝石に高いお金を出すならば、必ず信頼できる第三者機関の鑑別書に記載があることをチェック。
付録 見かけ上の色で冠される名前
特に有名なものと、どの分類に属する名前か、判断の難しいものを抜粋しました
※後日、追加や修正を加える可能性もございます
●宝石名…鑑別書に記載されます
ルビー(赤色コランダム)
タンザナイト(青~青紫色ゾイサイト)
アレキサンドライト(カラーチェンジ効果の認められるクリソベリル)
●通称名(別名)…鑑別書の備考欄に記載される場合がございます
パパラチアサファイア(オレンジとピンクの中間色コランダム)
インディゴライト(インディゴブルー(僅かに緑がかった青色)トルマリン)
ルベライト(赤色トルマリン)
●通称名とコマーシャルネームの中間的な名前…鑑別機関によっては鑑別書備考欄に記載される場合もございますが、取り扱わない所が多いです
サンタマリアアクアマリン / サンタマリア・アフリカーナ(濃青色アクアマリン)
ツァボライト(濃緑色グロッシュラーガーネット)
ビクスバイト(赤色ベリル)
●コマーシャルネーム…現時点では鑑別書に記載されません
カナリートルマリン(高彩度黄色トルマリン)
マンダリンガーネット(オレンジ色スぺサルティンガーネット)
パロットクリソベリル(蛍光を帯びた黄~緑色クリソベリル)