騙されないための宝石知識1 (名称の分類)
宝石の名前のお話
宝石の名前って本当にややこしいもので、初めて宝石に触れる方は混乱必至です。
しかし、名前に騙されたり勘違いして買ってしまわないように、最低限の知識は持っていて損はないかと思います。
それではまず、名前の分類から。
大きく分けて宝石の名前には三つの分類がございます。
●鉱物名
●宝石名
●その他(通称名(別名)・コマーシャルネーム・フォルスネーム)
これらの名前のうち、鑑別書に記載されるもの・記載されないものがございます。
特に『宝石名』と『通称名(別名)』と『コマーシャルネーム』は混同されて使われており、かなり詳しい方でないと区別が難しいかと思われます。
業界内の啓蒙の意味も込めて解説していきます。
宝石鑑別書に記載される名前
宝石鑑別書を作成すると『鉱物名』と『宝石名』の二つが記載されるケースが多いです。
これらの名前を説明する時、一番わかりやすい代表的な例はルビーとサファイアです。
ルビー、サファイアという名前は『宝石名』で、これはお馴染みのお名前ですね。
『宝石名』は宝飾業界内での正式名称です。
ルビー、サファイアは『鉱物名』ではどちらも『コランダム』と呼ばれます。
『鉱物名』とは文字通り、鉱物学上の名前です。結晶構造と化学組成をもとに分類され、呼称が決まります。
詳しい講釈が出来るほど、鉱物学の素養が私自身には無いため詳細は省きます。
もう一つ有名な例を挙げるとエメラルドとアクアマリンも『鉱物名』は『ベリル』という名前で、両者は鉱物学上では同じものと見なされます。
鑑別書には宝石が天然であれば、鉱物名の頭に『天然』と付けて『天然コランダム』のような表記となります。
ダイアモンドやトルマリンなど、鉱物名がそのまま宝石名と共通しているパターンもあり、これがなかなかややこしいのです。
その他の名前と位置づけ
『その他』に分類される名前は線引きが難しいですが、共通して言えるのはより付加価値をつけたいという意図をもって命名されたものです。
特に『フォルスネーム』は○○ダイアモンドとか○○ひすいなど、その石とは鉱物学上関係ない高価な石の名前にあやかって、お客様を勘違いさせようという悪意を感じる偽名の事です。
『ハーキマーダイヤモンド』はダイアモンドとは全く関係のないハーキマー産の水晶のことなのですが、一定の支持や知名度を獲得している名前なのでフォルスネーム(偽名)と一蹴してしまって良いものか悩むところです。
ただ、個人的にはあまり好ましい呼び名ではないと感じます。
『コマーシャルネーム』とは知名度の低い石や特定の色の石に素敵な名前をつけて売り出そうという、宝飾業界のプロモーション戦略から付けられた商品名です。
『通称名(別名)』は上記のコマーシャルネームがより浸透して広く一般的に使われるようになった俗称です。
コマーシャルネームとの間に明確な線引きはございませんが、通称名(別名)は鑑別書の備考欄に注釈の形で記載される場合がございます。
例:『別名、○○と呼ばれています』
例えば特定の色のトルマリンについての呼称『インディゴライト』や『ルベライト』等がございます。
この様な見かけ上の色に対してつけられる通称名は、また別の難しさ『明確な色範囲定義がない』という問題もはらんでおります。
その点については次の記事で改めて解説いたします。
最も出世した宝石の名前
今回、『その他』に分類した名前について『線引きが難しい』と最初に申し上げたのはタンザナイトの例があるためです。
『タンザナイト』はもともと、とあるジュエリー会社がつけた『コマーシャルネーム』です。
鉱物名・宝石名共に『ゾイサイト』とよばれる石のうち、美しい青~青紫系の色のものに『タンザナイト』と命名してプロモーションを行った事が始まりです。
それが大当たりしたことにより、もともとの名前以上に人気・知名度が高まりコマーシャルネームから『通称名(別名)』として認知されるようになりました。
『タンザナイト』なら聞いたことあるけど、『ゾイサイト』は初耳という方も多いのではないでしょうか。
更には近年、一般社団法人宝石鑑別団体協議会(AGL)様により『タンザナイト』名称の扱いが『宝石名』まで昇格し、多くの鑑別機関が発行する鑑別書に正式に記載されるようになりました。
一企業の付けた商品名が宝石名にまでなってしまうというのは、商業的な多数決の原理に権威がなびいた様でもあり、少し複雑な気持ちもあります。
しかし、由来となったゾイス氏には悪いけれど、やっぱり『ゾイサイト』よりも『タンザナイト』の方が響きは良いなぁと思ってしまうところもございます。